ブラックベリージャパンは、2024年6月5日に東京で記者会見を開き、同社の組込みシステム向けソフトウェアプラットフォーム最新版「QNX SDP 8.0」が産業用/医療用ロボット開発に最適であることを強調しました。特に、日本国内の産業用ロボットメーカーが注力しているロボット開発ソフトウェアフレームワーク「ROS 2」を使用したロボットを商用化する際に、安全性、セキュリティ、性能の面で強力な選択肢になると説明しました。また、QNX SDP 8.0とROS 2を組み合わせ、リアルタイム遠隔操作と触覚フィードバックが可能なコントローラーとロボットアームのデモも披露しました。
ブラックベリーのQNXは、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)の「QNX Neutrino」を中心とした組込みシステム向けソフトウェアプラットフォームであり、QNX関連事業の売上高の半分以上は、車載インフォテインメント(IVI)を中心とした自動車分野に集中しています。ブラックベリージャパンのカントリーセールスマネージャーであるアガルワル・サチン氏は、「残りの半分は、産業オートメーション、ロボット、医療機器など、ミッションクリティカルな分野で幅広く利用されています。自動車分野と共通して高く評価されているのは、機能安全規格準拠を中心とした安全性、RTOSのマイクロカーネルアーキテクチャに基づく高度なセキュリティ、そしてリアルタイム制御による性能です。」と述べました。自動車分野で既に日本国内で高い認知度を得ているQNXは、世界市場で自動車と同様に大きな存在感を示す産業用ロボット分野の事業を強化していく計画です。世界の産業用ロボット市場において、日本企業は45%のシェアを占めており、そのうち80%近くが海外に輸出されています。また、人口1万人当たりのロボット稼働台数でも、日本はアメリカの2倍以上です。「日本の経済において産業用ロボットは非常に重要であり、サプライチェーンをソフトウェアも含めて強化する必要があります。」とサチン氏は強調しました。
2023年12月に発表されたQNX SDP 8.0は、前世代の「QNX SDP 7.1」から大きく進化しました。QNXの中核であるRTOSアーキテクチャを見直し、最新の組込み機器の要件を満たし、大幅に拡張しました。ブラックベリージャパンのプリンシパルフィールドアプリケーションエンジニアである木内史郎氏は、「プロセッサに搭載されるコアが増えていますが、その性能を拡張可能な形で活用できるようにしました。」と強調しました。従来は最大16コアまでサポートしていましたが、QNX SDP 8.0では64コアまでサポートし、一般的なスケジューラに加えてスレッドスケジューラも導入しました。割り込み処理も細かく制御できるようになり、ネットワークスタックもNetBSDからFreeBSDに変更しました。より大容量のメモリをサポートするために、メモリ管理メカニズムにも変更を加えました。このようにアーキテクチャに大幅な変更を加えましたが、QNX SDP 7.1など以前のバージョンとの互換性も維持しています。アーキテクチャの機能拡張を行うと、処理負荷が増加し処理速度が低下するイメージもありますが、「処理性能は全く低下しません。」と木内氏は説明しました。また、開発環境についても、QNXが継続的に提供してきたEclipseベースの「Momentics」だけでなく、多くのソフトウェア開発者が利用する「Visual Studio Code」も新たに利用できるようになりました。
性能面で大きなアップグレードを果たしたQNX SDP 8.0ですが、安全性とセキュリティも以前のバージョンと同様に確保されています。安全性を象徴するのは、IEC 61508 SIL3、IEC 62304 Class C、ISO 26262 ASIL Dなど、様々な機能安全規格において最も高い安全要求レベルを満たせるという認証を取得していることです。木内氏は、「様々な産業用ロボットを組み合わせてロボットシステムを構築するロボットSIerにとっては、基盤となるソフトウェアレベルで認証を取得しているということは、機能安全規格準拠のシステム構築時にコスト削減につながります。」と説明しました。また、セーフティクリティカルコンポーネントと非セーフティクリティカルコンポーネントを分離できるマイクロカーネルであるという点は変わっていないため、Linuxを含むモノリシックOSと比較してセキュリティを確保しやすいのです。
記者会見では、ブラックベリーと産業用/医療用ロボット分野で連携を発表したアメリカのFlexivのロボットアームと、カナダのHaply Roboticsの遠隔操作/触覚フィードバックコントローラーを組み合わせたデモを披露しました。ロボットアームとコントローラーは、NXPセミコンダクターの「i.MX 8M Plus」評価ボードに接続されており、QNX SDP 8.0上にロボットアームとコントローラーの連携制御を行うROS 2と、i.MX 8M Plusで画像認識を行うOpenCVなどが搭載されています。木内氏は、「日本国内の産業用ロボットメーカーもROS 2を使った開発を進めていますが、商用化に向けて安全性、セキュリティ、リアルタイム性能などの性能に課題があるように思います。QNX SDP 8.0を利用することで、これらの課題を解決できるでしょう。」と述べました。