世界の主要都市の上空を、下の交通渋滞をものともせず飛び交う姿は、長年人々が期待してきた未来の姿だろう。そんな未来予想図が、まもなくドバイやニューヨークなどで現実のものとなりそうだ。イギリスでも、運輸省が最近「飛行の未来」行動計画（Future of Flight action plan）を発表し、早ければ2年後にはロンドンでも電気垂直離着陸機（eVTOL）、いわゆる「空飛ぶタクシー」の運行を開始するという目標を掲げている。

ドローンと似たような形になるだろうという意見が出ている。プロペラで推進されるドローンは、ここ15年間で、不安定で頻繁に事故を起こすおもちゃから、僻地への物資配送や空中での映像表示ができる機器へと進化を遂げてきた。これはすべて、リチウムイオン電池、電気モーター、ソフトウェアの発展のおかげだ。

米カリフォルニア州に本社を置くジョビー・アビエーション（Joby Aviation）は、新技術を活用してeVTOLを開発する企業の一つだ。ジョビー・アビエーションのeVTOLは、6つの電気モーターと方向転換可能なプロペラを搭載し、最高速度は約320km/hに達する。1回の充電で約160km飛行可能で、乗車人数は4名。当面はパイロットが操縦する。排気ガスを排出しないため、従来の自動車に比べて二酸化炭素排出量が少なく、しかもほとんど音を立てずに飛行できる。航空、宇宙、防衛分野を扱う「Aviation Week」の編集長、ガイ・ノリス（Guy Norris）は、試作品を視察し、「聞こえるか聞こえないか、そんな程度の音しか出さない」と語った。

EV（電気自動車）分野で世界的に存在感を示す中国。空飛ぶタクシー分野でも、中国は新たな技術を生み出している。中国のドローンメーカー、億航智能（イーハン）は、2023年に同社が開発した空飛ぶタクシーについて、中国民用航空局から品質を認証する「型式証明」を取得した。現在、観光および安徽（あんき）省合肥（ごうひ）市の定期往復路線用として100台の受注を獲得しており、無人操縦機の開発にも着手している。

ヴァーティカル・エアロスペース（Vertical Aerospace）は、イギリスにおけるeVTOLのパイオニア的存在で、ブリストルに本社を置く。同社は、イギリス政府から3700万ポンド（約74億円）の補助金を受け、5人乗りのeVTOLを完成させることを目標としており、イギリス民間航空局から設計承認を取得した。2026年までにロンドンで試験飛行を開始する予定だ。離発着場となる「バーティポート」は現在選定中だ。ロンドン市内では、「バーティポートとして、建物の屋上を探している企業もあります」と、ヴァーティカル・エアロスペース広報担当のウィル・ネイサン（Will Nathan）は語った。

2023年11月、ジョビー・アビエーションはニューヨークのマンハッタンからジョン・F・ケネディ国際空港まで、試験飛行に成功した。同社によると、通常タクシーで約1時間かかる距離を、わずか7分に短縮できたという。2025年には、最初の商業運航を開始する予定だ。また、ドバイ道路交通局とも、2026年のサービス開始を目標に6年間の独占契約を締結した。

日本でも、「空飛ぶタクシー」は、2025年に開催される大阪・関西万博で公開される予定だ。万博を機に、日本でも「空飛ぶタクシー」の実用化が加速する可能性がある。

「空飛ぶタクシー」は、短時間で長距離移動できる画期的な交通手段として、今後都市の姿を一変させる可能性が高い。しかし、安全性や運賃など、解決すべき課題も多い。今後「空飛ぶタクシー」がどのように発展していくのか、注目される。